三宅:私はクリエイティブ業界で働きたいという思いが強く、専門学校でメディアデザインを学びました。卒業後は、Web制作会社でディレクション・デザイン・コーディングを包括的に担当しました。技術面に強い環境でチャレンジしたいという思いから、メンバーの6割をエンジニアが占めるチームラボに転職しました。前職で培った経験を生かし、デザイナーとカタリストを兼任したい、という要望に応えてくれる柔軟さも、決め手となりました。
伊藤:私は高校卒業後、オーストラリアでグラフィックデザインを勉強しました。卒業後は、京都のデザイン事務所で経験を積み、東京のWeb制作会社に転職しました。仕事をする中で、エンジニアのいる環境なら、デザイナーとしてもっと面白い仕事ができそうだと考えるようになりました。そんな時にチームラボのメンバーと話す機会があり、自分にとって理想的な環境だと感じました。
加藤:私はグラフィックデザインに興味があり、美術大学に入学しました。在学中はアウトプットの種類にこだわらず、デザインのあり方を根本的に考えられるよう意識しながら学び、UI/UXデザインを就職先として考えるようになりました。チームラボで面接を受けたところ、インターンシップへの参加を勧められ、課題と実務に追われる日々を4週間過ごしました。その中で、仕事へ取り組む姿勢や伸び代を評価していただき、新卒で採用されました。
加藤:主にWebサイトやアプリ、デジタルサイネージのUI/UXデザイン、グラフィックを担当します。 クライアントワークが多いので、アウトプットもサービスからプロモーションと幅広いです。
伊藤:一般的な企業では、要件定義・デザイン・開発を分業制で進めていくことが多いと思います。しかし、チームラボのデザイナーは企画・構想段階からプロジェクトに参画し、コンセプトやユーザー体験の設計に携わります。
カタリスト※1と一緒にコンセプトを踏まえたUXを考え、エンジニアと一緒に実現したいUIを相談し、アウトプットのクオリティを高めます。エンジニアがメンバーにいるので、実現できるUIの可能性が最大限になります。
※1カタリストとは、「触媒」「触発者(物)」「促進する働きをするもの」という意味です。様々なスキルを持ったスペシャリストを繋ぎ、チームとして最大限の力を発揮できるように動くメンバーです。
加藤:チームラボでは、ユーザー体験の設計からインターフェースのデザインまでを一人でこなせるスキルが必要となります。プロモーション用のビジュアルやランディングページもデザイナーが制作するので、グラフィックデザインの知識があると、幅広いプロジェクトで活躍できると思います。
伊藤:新しいサービスを生み出す過程で、ビジネスセンスを持ち合わせたデザイナーの重要性がこれまで以上に高まっています。サービスの新規性に関わらず、最終的にはクライアントの利益になることを提案するので、マーケティングや世の中の仕組み、トレンドを理解して、プロジェクトに取り組めるデザイナーは強いです。チームラボの場合、ほとんどのプロジェクトで構想策定の段階からデザイナーが参画します。その為ビジネスの話が好きな人・得意な人は楽しく働けるはずです。
三宅:私も「ビジネス的な視点」の必要性は実感しています。見た目だけ良いアウトプットを作るのは比較的簡単ですが、私たちにはクライアントがいて、デザインするサービスにはユーザーがいます。そのため、ユーザーのニーズとクライアントのビジョンを繋げ、クライアントに利益を還元できる仕組みをデザインに落とし込む力を、チームラボのデザインチームとして、どんどん強化していきたいですね。
三宅:ユーザー体験の設計で難しいポイントは2つあります。ひとつは、クライアント側がユーザーのニーズを主観で捉えてしまい、実際のユーザーのニーズに合わないものをゴールにしてしまうことあります。もうひとつは、私たち自身、議論の中で正解を見失ってしまうことがあります。
この2つのポイントをクリアするために、私たちはプロトタイプを作成して実際にテスト体験してみます。そうすると、自分たちが想像していたユーザー体験と、実際の体験の違いを発見でき、クライアントやサービスが抱える問題を具体化し、ソリューションに落とし込むことができます。クライアントと議論する中で、ユーザーとクライアント、双方のニーズを擦り合わせ、トライアンドエラーを繰り返しながらUI/UXを洗練させていきます。このように柔軟なプロセスでデザインを進められるのは、デザイナーがプロジェクトに初期段階から入ることで可能になります。
私が担当したプロジェクトに、ANAマイレージクラブの会員カードをデジタル化する「ANAマイレージクラブアプリ」の開発があります。プロジェクトのゴールは、提供されているサービスをより豊かに感じていただくことです。カードがもつステータスとしての魅力を損なわないことも重要でした。
デザインの段階では、多角的な視点からアイデア出しとプロトタイプの作成を繰り返し、その過程で「カードがもつリアルな質感を再現する」という最終的な方針が決まりました。クライアントと合意を取ったというよりは、お互いの意見を出し合いながら二人三脚で、クライアントのビジョンとユーザーのニーズをマッチさせたという印象です。
また、デザインを考える際に意識しているのは客観的な視点をもつことです。日頃から主観性と客観性を意識的に区別するよう心がけることで、仕事の時も自分の主観的な考えと、それとは違う客観的な考えを分けられるようになります。加えて、先行事例や類似事例がある場合は、それを体験することで、ユーザー目線の評価を忘れないようにしています。
加藤:私は、「りそなグループアプリ」のデザインを担当しました。クライアントからは「ユーザーの新しい銀行体験を提供する」「銀行らしくないアプリを作りたい」という依頼がありました。リリース後にはアプリが「グッドデザイン賞」を受賞し、大手銀行アプリがアワードを受賞するというのは、当時は国内において例がなかったようで、各メディアにも取り上げていただきました。
構想策定段階から参加し、ある程度デザインを作ってモックアップに落とし込み、カタリスト ・エンジニアとともにどのような表現がベストであるかを議論しました。
金融機関のアプリUIというと、特に日本においては機能が多く複雑なものが多く、いかにUIをシンプルで使いやすいものにするかで、圧倒的な差別化になります。また、ユーザーのニーズも様々なので、どのユーザーにとっても利用してもらいやすいアプリにする必要がありました。
特に議論の対象となったのはトップ画面の構成です。銀行取引には多くの種類があり、アプリの利用動機も人それぞれです。トップに表示する要素は、金融取引の一覧を表示すべか、普通預金の明細を表示すべきかという議論が何度も行われました。ユーザーリサーチの結果、実に様々な顧客のニーズが浮き彫りとなりました。そのリサーチを踏まえ、今までにない新しい銀行体験を考えた結果、「ユーザーの利用状況に応じ、パーソナライズされるトップ画面」を採用するに至りました。
今回プロジェクトでは、ユーザーの「生活によりそったUI」をできて学びも多かったのですが、「新しい銀行体験をデザインできた」という達成感もあり嬉しく感じています。構想策定からデザイナー・カタリスト ・エンジニアが入り、チームで共有できるコンセプトを軸にプロジェクトを進めていけたからこそ、最終的に納得が行くデザインに落とし込めたと、あらためて実感しました。
伊藤:当たり前を疑う姿勢がとても重要です。例えば、JR東日本の駅構内にある「イノベーション自販機」の専用アプリ「acure pass」はチームラボが製作したプロダクトとサービスです。自販機のインターフェースには何十年も変化がありませんでした。多くの人は現状に満足していると考えがちですが、そこにイノベーションを起こしたいというのが、クライアントの要望です。
サイネージやアプリとの連動機能を強化し、自販機初のサブスクリプションサービスを実現しました。また、裏側のデータ部分にも注目しました。それまでの自販機はアナログだったので、いつどこで、どんな人が何を買ったかというデータは、取れませんでした。そのため、各自販機の商品在庫をデジタルで集中管理し、情報がリアルタイムで得られるようにしました。
このようなアイデアはデザイナー・エンジニア・カタリストが一丸となって考えたものです。デザイナーという仕事の境界は実際のところかなり曖昧なのかもしれません。
伊藤:スケールの大きな案件が多く、自分の手がけたものが人の手に渡っているリアルな感触を得られることです。その分プレッシャーも大きいですが、達成感はひとしおです。
加藤:チームラボの場合、「新しい“何か”を作りたい、それを一緒に考えたい」と言ってくださるクライアントが多いです。挑戦の連続ではありますが、新しいものを生み出したい人にとっては最高の環境だと思います。
三宅:チームラボのデザイナーは、クライアントの課題を考える段階からプロジェクトに参画します。クライアントによって毎回異なる課題を見つけ出し、それを解決するためのデザインを考えるという一連のプロセスにやりがいを感じています。