高校卒業までは武漢市で過ごし、大学からペンシルベニアに渡りました。海外の大学に編入した知り合いから、入学してからも刺激の多い中で、一生懸命勉強できる環境があることを聞いていて、その環境に惹かれて海外進学を決めました。
進学したペンシルベニア州立大学では二つ専攻していて、一つが「Landscape Architecture」で、屋外空間の造形や公園などのパブリックスペースの設計などを学んでいました。二つ目が芸術史です。どちらも元々興味があったのと、ペンシルベニア州立大学は「Landscape Architecture」が特に有名だったこともあり、選択しました。
ーそこから大学院では別の専攻を学ばれていたということですが、その経緯を教えてください。
私の所属していた学部は5年制だったのですが、4年生までは正直就職しようと思っていました。ですが、ちょうどその頃メディアアートにも興味を持ち始めていて。4年生の冬に東京へ旅行に行ったのですが、その時訪れた「宇宙と芸術展:かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ」という展覧会で、初めてチームラボの作品を観たんです。
作品を見て、「これは面白いぞ」と興味を持って、大学5年生ではこれまでの専攻とは異なるメディアアートやプログラミングの授業に参加するようになりました。そこから、もっと深くこの分野を学びたいと思い、専攻を変えて大学院に進学することに決めたんです。
ーチームラボの作品との出会いも一つのきっかけとなっていたのですね!カーネギーメロン大学に進学した理由はなんですか?
カーネギーメロン大学は、元々Computer ScienceとDrama(演劇)が有名な大学で、この二つを通して面白いことができるかも、と思ったのが選んだ理由となります。
具体的な専攻はComputational Designだったのですが、入学してすぐはその技術を早く学びたかったので、関連する授業をたくさん受けていました。
*Computational Designとは
コンピューターやデジタル技術を使って創造的なデザインを行う手法のこと。アルゴリズムやプログラミングを活用し、自動生成やデザインの変化を容易にすることが特徴。
また、入学の決め手になった演劇にも多く携わり、演劇学校のメディアデザインの授業で講師をやったり、イマーシブシアターという体験型演劇の制作にも挑戦しました。実際に演劇制作を経験しながら、VRやARのテクノロジーを活用して、本物の演者がそこにいなくても何かを表現して伝えることができるかを最終的には研究していました。
大学卒業時に一度、チームラボのインターンシップに応募したのですが、タイミングが合わず参加ができなかったんです。それから数年後、大学院在学中にチームラボの採用チームから再度連絡をもらって、サマーインターンシップに参加することになりました。サマーインターンシップと研究に全力で取り組んだ期間は大変でしたが、ものすごく充実していましたね。
ーサマーインターンシップではどのようなことをしましたか?
現在のサマーインターンシップとの形式は異なりますが、当時私が参加した際にはチームラボのアートカタリストの仕事をそのまま経験させてもらいました。猪子さんとのミーティングにも出ましたし、山口県宇部市で開催した展覧会現場へ出張に行ったりもしました。
インターンシップ中は、teamLab Borderless Shanghaiに展示されている《地形の記憶》という作品に携わり、作品空間設計向けのツールの開発に挑戦しました。
サマーインターンシップでの2ヶ月間を通して、「自分のやりたいことがここならできる」ということが分かりましたし、何よりメンバーの雰囲気やチームでの居心地がよかったので、すぐに入ることを決めました。
ー現在の職種と所属しているチームについて教えてください。
職種は、チームラボの展覧会や作品の制作に携わる「アートカタリスト」です。その中で「アートディレクションチーム」という、主にプロジェクション系作品の開発管理を担当している約10名のチームに所属しています。
ー仕事内容を教えてください。
作品の開発→完成→設営までのプロセスで必要なこと全てに関わっています!
具体的には、
・専門知識を持つメンバーを集めてチームを作る
・完成までのスケジュール等の計画を立てる
・チームメンバー同士のコミュニケーションのフォローやサポートをする
・完成作品をいつ・どのように展示会場に設営するか計画し実行する
などなど、”何でも屋”と言っていいくらい担当範囲は広いです(笑)
ーYixiaoさんが仕事の中で関わるのはどのようなメンバーですか?
プロジェクション系作品の場合は、主に3つの職種のメンバーとアートカタリストが連携を取りながら開発を進めていきます。
*プロジェクション系作品で関わる主な3つの職種
①画像処理エンジニア
→画像処理技術を使い、人の動きに反応するインタラクティブアートのプログラムや機械学習を使用した物体認識システムの開発を行う
②インタラクティブエンジニア(グラフィック / モーション)
→リアルタイムでインタラクティブに動くデジタルサイネージやアート作品を制作しており、企画・デザインの段階からミーティングに参加し、開発を行う
③ビジュアルデザイナー(Cinema 4D)
→展示空間の設計から3Dモデルの作成を行い、空間内で展示されるアート作品のアイディアをビジュアライズする
アートカタリストは専門知識を持ったメンバーとスムーズにコミュニケーションが取れるよう、システム内部の仕組みをある程度理解している必要があります。
「学ぶ!未来の遊園地」や「チームラボアスレチックス 運動の森」のプロジェクトにおける作品に携わっています。
私の場合は学生時代の経験を活かして、担当している作品の制作だけでなく、展示空間の設計も行っています。
ーご自身で空間の設計まで担当しているのですね!実際に空間の設計を行った作品にはどのようなものがありますか?
先ほども登場した《地形の記憶》では、一つひとつのスクリーンが空間の中にどのように配置されるべきかを考えて空間を設計しました。
この作品は、2025年にハンブルクにオープン予定の「チームラボボーダレス」でも展示予定なのですが、空間のサイズや天井の高さ、消防基準など、あらゆる面でこれまでの展示会場とは異なるため、それらを踏まえて設計し直し、無事に完成まで進めることができました。
この作品は、サマーインターン時代から携わっているので、自分の中でも思い入れがあります。担当した作品は自分の子供のような感じです(笑)
チームラボボーダレス お台場で展示されていた《イロトリドリの群れの中のエアリアルクライミング》という作品が印象に残っています。
この作品は、私がチームラボに正式に入ってから初めて担当したもので、当時のメンターと一緒に作品のアップデートを任されました。
ーどのようなアップデートをしたのでしょうか?
この作品は、ロープで吊られた棒が、空中に立体的に浮かんでいる空間になっているのですが、まずは、ロープで吊られた棒の改善をしました。初期のこの作品では、実はまだ棒が光っていなくて、周囲に比べると、この棒自体の存在感が薄かったんです。
この状態を改善するために、メンターとともに何度も様々な実験を繰り返しました。その結果、棒の輪郭がはっきりし、空中に浮いている状態に見えるようにすることができました。
ーアップデート前とは作品の印象がだいぶ変わりますね。確かに浮いているように見えます!!
実はアップデートはこれだけじゃないんです。
この作品は、人々が、棒を使って空中を立体的に渡って体験するのですが、どうしても人が乗ると、この棒に本来映したくない影ができてしまうんです。棒は、輪郭がはっきりしつつも影がない状態にしたかったので、実験を繰り返し、様々な工夫をして改善しました。
また、棒に人が登ると揺れてしまいますが、棒の位置が動いた際にも影がない状態にするにはどうしたらいいか、画像処理エンジニアのチームと研究しました。
最終的には、影も最小限で輪郭がはっきりした状態にすることができ、作品のクオリティを向上させることができました。自分たちが取り組んだ改善によって作品が「こんな風に変わるんだ」という大きな変化が目の前で見られたことに一番感動しましたね。
きっとお客さんから見るとそこまで変わらない部分ではあるけれど、私たちはたくさんの時間をかけて、考えて、一生懸命作品のアップデートをしているんです。そこがこの仕事の面白さだと思います。
まずは、チームラボの作品に興味がある人ですね。そして、過去に自分で作品を作った経験がある人は向いていると思います。チームラボの作品のようなものでなくても、何かしらのものづくりをした経験は必ず活きてくると思いますよ。
また、チームの特徴としては決まったタスクを受け身で行うというよりは、自分から何をしないといけないのか常に考えて動ける人が多いと思うので、そういう性格の人は合っているかもしれません。
チームラボは、会社というより大学の研究室に近い環境だと思います。
チームで何か面白いものを作りたい人にとって、チームラボは正しい選択だと思いますよ。ものづくりにワクワクできる人、お待ちしております!